媚薬 1
「あんた・・なんて薬を飲ませてしまったの・・・。」
ハロルドの、困り果てたような、あきれたような声が響いた。ロニの額から、冷や汗が流れ落ちた。
「う、嘘、だろ?おい・・」
ロニの顔が引きつった。
「嘘なんかじゃないわ。あんたがジューダスに飲ませてしまった薬は強力な媚薬の一種よ。」
残酷に、ハロルドは告げたのだった。
ことの起こりは、天地戦争時代、ハロルドの部屋だった。ロニはそこで、妖しげなピンク色の瓶を発見したのだった。その瓶はほかの瓶とは色が異なり、その上なにやら読めない字で言葉が赤字で大きくかかれていた。そして、ほかの瓶と明らかに隔離されていた。
「おい、ハロルド。この瓶なんだよ。」
不思議に思ったロニはピンクの瓶を手に取り、ハロルドに尋ねた。ハロルドは
「その辺にある瓶は栄養ドリンクよ。」
とパソコン画面を見つめながら片手間に答えた。
「栄養ドリンク・・かぁ・・・。」
そこで、ロニは考えた。きっと、これはオベロナミンCとかそういう類のものだろう。
(ジューダス、人一倍HPも低いし、きっと疲れが溜まっているだろうな・・よし、これを持って行ってやろう。)
「ハロルド、これ一本もらうぞ!」
そう言うと、ロニは勢いよくハロルドの部屋から飛び出した。
ジューダスは、与えられた部屋でくつろいでいた。
「おい、ジューダス。」
「なんだ騒々しい。」
息をきらしてロニがドアを開けると、ジューダスはうるさそうに目を細めた。
「これ、飲んでみろよ。お前も戦闘で疲れてるだろ?多分、オベロナミンCみたいなもんだと思うぜ?」
ロニは瓶をジューダスに渡した。
「・・・・?この時代に瓶の回復薬なんて発明されていたか・・?まぁいい。ちょうど疲れていたところだ。僕はお前みたいに体力馬鹿ではないからな。疲れやすいんだ。でも・・まぁ礼を言う。」
ジューダスは本当に疲れていたらしくその場で瓶を開けた。その瞬間。
「ちょっとタンマー!!!」
ハロルドが蒼い顔で部屋に入ってきた。
「なぁんだよハロルド?ノックもしないで。」
せっかく二人っきりだったのに邪魔をされて、ロニは不服そうに言った。しかしハロルドはそんなロニは無視してジューダスの方を見て言った。
「ああ・・もう飲んでしまったのね・・こんな予想外なことは初めてだわ。」
「・・この回復薬になにか問題でもあるのか?」
ハロルドの様子は明らかにおかしい。
「問題ありありよ。落ち着いて、聞いてね。」
ハロルドの顔が深刻さを増した。
「その薬はね、古来より伝わる媚薬の一種で・・私はその薬を調査しているの。その薬を飲んでしまうと、淫乱になってしまうのよ。」
「い・・・。」
二人は思わず言葉を失った。ジューダスはすっかり青ざめてしまっている。
「でも、安心して。ジューダスは好きな人いないわよね?恋をしないとその薬は無効よ。でも・・・あんた、なんて薬を飲ませてしまったの。」
ハロルドはロニに、「ジューダスにこんな薬をのませてしまった責任をとりなさい。私が解毒剤を開発するまでに、ジューダスに誰とも恋をさせちゃだめよ。」と言うとすぐに研究室にこもってしまった。
「ジュ、ジューダス・・。ごめん・・・・。」
「そう謝ることは無い。僕が誰も好きにならなければいいんだ。だから、こんな薬を飲んでもまったく意味はないんだ。」
ジューダスは思いのほか優しく言った。しかし、ロニは泣きたいくらいだった。ジューダスのためを思ってしたことなのに、結果的にジューダスにとてもひどい薬を飲ませてしまったのだ。それに・・・
(恋をしない・・か。それって俺がいくらジューダスのこと好きでもジューダスが俺のことを好きになるなんて一生ありえないってことか・・)
そして、ロニは決心したのだ。ハロルドが解毒剤を開発するまでは、ジューダスにかっこいい男を近づけさせないことを。
夕飯の最中に、リアラたちのの黄色い声が飛び交った。
「アトワイトさんを助けに来たときのディムロスさん、かっこよかったわねーv」
「まぁ、一般的に女性が好む男よね。」
そんなことをリアラ(とハロルド)に言われては、カイルは面白くない。
「ちぇー。なんだよみんなディムロスさんディムロスさんって・・・」
「ははは、そりゃあしょうがないだろ、なんてったって強くて若くてかっこいいんだか・・ら・・・」
悔しそうなカイルをからかってそう言うロニだったが途中で威勢が悪くなった。
(あんだけかっこいいディムロスさんだ・・ジューダスがディムロスさんに惚れていたら・・どうしよう・・)
一瞬ディムロスさんにいいように弄られているジューダスが目に浮かび、ロニは蒼白になった。
「おい、ジューダス、ちょっと来い!」
心配になってロニはジューダスの袖を掴んだ。
「なんだ?食事中に・・。」
「大事なことなんだ、ちょっとでいいから。」
ジューダスの皿にはまだパンが残っていた。しかし、ロニがあまりにも深刻そうな顔をしているので渋々とついて行った。
地上軍基地には二人っきりになれる場所があまりなく、仕方が無く雪が激しく吹き荒れる外へ行った。
「どうしたんだ?ロニ。」
白い吐息を吐きながらジューダスが言った。
「その・・・ちょっと心配になったんだ。リアラたちがディムロスさんの事をかっこいいと言うから・・お前ももしかしたらそう思っているのかと思って。」
ロニにとっては、大事なことだった。ジューダスが、ディムロスに抱かれているところなんて、想像するのも嫌だ。それなのに、ジューダスはクッと噴出すと、そのまま声をたてて笑った。
「な、なんだよ、笑うなよ!」
ロニがそう言い返すと、ジューダスと目が合った。珍しく笑っているジューダスと。思わず胸が高鳴った。
「お前、僕は男だぞ?」
jジューダスはそういうと、また声をあげて笑い出した。そんなジューダスの様子にロニは少し安心した。
(・・このまま・・・このままジューダスが誰も好きにならなければいい・・。)
「どうした?元気がないな。めずらしい。」
ジューダスがふいにロニの顔を覗き込んだ。
「い、・・いや、何でもねぇよ。ははは・・。」
「おかしな奴だな、まったく。」
ジューダスはまるで拗ねたような顔をした。
(ジューダス・・やっぱりなんか変だよな。)
夜、ベッドの中で考えた。最近のジューダスは・・なんか可笑しい気がする。
さっきなんか、めずらしく声をたてて笑ったり、拗ねてみたりしていた。
やっぱり薬の副作用か何かだろうか・・?でも、ハロルドはそんな副作用なんて言ってなかったし・・
思いをめぐらせていると、隣のベッドから寝返りを打つ音がした。
(ジューダス・・だよな。さっきから寝返り打ちまくってるけど。もしかして、おきているのか?)
「ジュ・・・ダス?」
起き上がって声をかけてみる。すると・・・こちらに背を向けていたジューダスがころん、とこちらを向いた。
「・・眠れないのか?」
「・・ああ、ちょっと・・なんかだるくて・・。」
ジューダスの声は、すこし高くて甘さを帯びて聞こえてぎくっとした。よく目を凝らしてみると、ジューダスの顔はわずかに赤くなっていた。
「おまえ・・・もしかして好きな奴できちまったのか!」
思わず蒼白になって尋ねると、ジューダスはあきれたような顔をして言った。
「バカだな。僕はあれから女性はリアラとハロルドとナナリーくらいにしか会っていない。誰を好きになるというんだ?」
「・・それもそうだな。」
たしかに、ジューダスはナナリー達のことは仲間としか思っていないだろう・・。
「だったら、熱でもあるのか?」
心配になってベッドを出てジューダスの様子を見た。とてもだるそうだか、時折首を動かしたりして落ち着きが無かった。どう考えても様子がへんだ。
「・・そうかもしれない。」
「おいおい、大丈夫か?」
ロニがジューダスの額に手を当てた。ジューダスは思わず身動ぎした。
「ん・・少し熱いな。待ってろ。今ハロルド呼んでくるから・・・。」
ロニが行こうとするとジューダスが呼び止めた。
「ロニ・・行かなくていい。」
「ジューダス?」
「行かなくて・・いい、から・・・・。」
そのとき、ジューダスは自分の呼吸が乱れ始めていることに気付いた。
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続きます。
どうなることやら・・(汗
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